アパレル業界は大きな転換期にある?
服は衣食住の衣の部分で身近にあるもので、外出先ではモールやデパートなどでアパレルショップを見かけることも多く、アパレルの仕事はなんとなくイメージがしやすいでしょう。おしゃれで華やかなイメージからアパレル業界に憧れを持つ人も少なくありませんが、就職してからのミスマッチを防ぐためにも業界の実態を正しく把握しておかなければなりません。
きらきら華やかにして見えるアパレル業界は、実は多様な問題を抱えており、楽しいことばかりとは限らず、地味でアナログな部分も多いので注意が必要です。時代の流れや消費者の思考の変化に大きな影響を受けるアパレル業界は、現在大きな転換期を迎えているともいえます。
イメージしているアパレル業界と、今後の行く末が違っている可能性もあるため注意しなければなりません。アパレル業界の現状から課題、将来性まで知り、業界への理解を深めていきましょう。
アパレル業界の現状
アパレル業界についての理解を深めるには、まずは現状を正しく把握することが大事です。アパレル業界は企業が直接消費者と関わるBtoC構図であるため、消費者にとっても業界のことは何となくイメージしやすいです。素材や卸などはBtoBになりますが、ここでは小売りのアパレル企業について説明いたします。
しかし、業界について知っているつもりでも、あくまで消費者の視点にしか過ぎず、業界の実態の奥深いところまでは、目が届いていないことも少なくありません。消費者目線で見ることはもちろん大切ですが、さらに理解を深めるには、ビジネスの感覚を持って現状を理解する必要があります。
ファストファッションの登場により低コスト思考が根強くなっている
ファストファッションの影響からアパレル業界では全体的に低コスト思考が広がっており、安くいい物を買うことが、現在の消費者の一般的な考えでしょう。ひと昔前までは安かろう悪かろうで、安物はすぐにダメになってしまい結局高くつくため、長持ちする高い物を買うという認識が強くありました。
しかし、現在では縫製技術や品質管理、その他もろもろの技術向上に伴い、安くてもいい製品が数多く登場しています。単に長持ちするだけではなく、機能性やデザイン性に優れたものも多いため、あえて高い物を買う必要がないと考える人も多いのが現状です。
安くても品質のいい物が手に入ることから、低コスト思考は広がっており、ファッションはロープライス化が進んでいるといえるでしょう。
低コスト思考の影にあるのは、ファストファッションやメルカリなどの二次流通市場の存在です。国内外で広く展開されているファストファッションは、商品の移り変わりが早く、トレンドを重視している点が特徴です。その時々でのトレンドのアイテムが、安価で手に入ることから、ファストファッションだけでおしゃれをすることも少なくありません。
テレビやネットでもファストファッションのみのコーディネートの特集を組むことがあるくらいで、認知度は非常に高いでしょう。また、個人間で気軽に売買できるフリマアプリで服を出品する人も多く、これを利用して割引価格で少し高いものを買うという人も少なくありません。これも低コスト思考に大きな影響を与えています。
消費者の思考は二極化へ
一般的には低コスト思考が広く浸透していますが、全員が安さを求めているわけではありません。低コスト思考を持つ人が増えている中で、反対にセレクトの一点物や高級なブランド品を求める人もおり、消費者の思考は二極化しています。
思考の違いによってアイテムの使用期間が変わることも多く、安いものはトレンドを重視して短いサイクルで買い替えるのに対して、高いものは長く使うのが基本です。いわば流行り廃りの激しいトレンドのアイテムは安価で購入し、時代の流れに関係しない、普遍的なアイテムは長く使うという価格帯による違いは大きいです。
長く使うものはよいもの、短いサイクルで交換するものは安いものと、両方の思考をブレンドする人もいます。
アパレル業界が抱える課題
アパレル業界の現状を知ったところで、ここからどのような課題があるかを考えてみましょう。アパレル業界が抱える課題は大きく2つであり、これらにどのように対処するかが、今後の業界全体の成長性を左右するといっても過言ではありません。
トレンドや社会の変化に影響を受けやすいアパレル業界だからこそ、現状の課題を知り、何から影響を受けているのか知るのは大切です。課題を知って問題点を洗い出し、就職する際の弊害にならないかチェックしておきましょう。
全体的に消費者の支出が減っている
低コスト思考が広がっているように、ファッションにお金をかける人が減っており、消費者全体の支出は減少傾向にあります。もともとファストファッションはワンシーズンで交換することを前提に作られていますが、今では質が良いものも多く、使い方次第では数年使えることも少なくありません。
トレンド重視のアイテムは多いですが、中には時代の流れに関係しないベーシックなアイテムもあり、安く買って長く使い、費用を節約するという人も増えています。また、景気の悪化によって収入が減り、優先順位的にも服にお金をかけられないという事情も少なからずあります。ファッションは娯楽の要素が強いため、不景気の時は消費者の財布の紐が固くなりやすいです。
店舗よりもネット通販の買い物が増えつつある
ネット通販市場の規模の増大によって、サービスを利用する人は増え、アパレル業界でもこの煽りを受けています。実店舗を構える店は少なくありませんが、同時にオンラインショップも開設しており、ネットのほうが売れるということも多いです。
店舗に足を運ばなくてよい、在庫がなくてもネットなら買える場合がある、店員に話しかけられずに済むなど、ネット通販を利用する理由は人によって違います。企業によってはネット通販だけの限定商品を用意していることもあります。
ネット通販でも売上が増えるならよいですが、反面店舗での業務が減ってしまい、人件費の調整が難しい点が問題です。ネットと実店舗をどのように使い分けるか、バランスの調整は今後の大きな課題といえます。
アパレル業界の将来性について
現状としてアパレル業界は課題を抱えていますが、だからといって将来性がないわけではありません。課題を解決した先に明るい未来は待っているため、少なからず将来性があることは理解しておきましょう。ただし、それがどの程度なのか、事前に理解してアパレル業界に就職するのがふさわしいか、もう一度よく考えることが大切です。
アパレル業界にはどれだけの将来性があるのか、将来性を切り開くためのポイントも含めて理解を深めておきましょう。
衣食住の衣としての最低限の需要はある
大前提として、服はファッションや個性の表現といった以前に、生活必需品としての位置づけがあります。つまり、どれだけ業界規模が縮小したとしても、生活に必須の衣料品としての需要は確実に残り、業界自体がなくなるという心配はありません。
もちろん、最低限の需要だけになってしまうと、業界規模の縮小は免れませんが、世界中の誰もがおしゃれをしなくなるという状態はイメージしづらいです。日本では少子高齢化によって人口減少が進み、消費者の絶対数が減る分業界規模も縮小する可能性が高いですが、これはアパレル業界に限ったことではありません。他の業界も同様のリスクは抱えており、国内需要の縮小を見越して、海外展開を進め、需要の確保を狙う企業は数多くあります。
各ブランド・メーカーごとの競争は熾烈化するレッドオーシャン
国内消費は人口減少によって縮小することが予想されるため、少ない需要を獲得するために、各社での競争は激化すると考えられます。社会構造の変化によって消費者の思考がさらに変わる可能性はありますが、低コストと本物志向の二極化の場合で考えても、競争が激化する可能性は高いです。
低コストのファストファッション同士での競争はもちろん、ブランドやセレクト対ファストファッションという構図が生まれつつもあります。特定の分野同士で競争するというよりは、アパレル業界全体での競争になる可能性が高いです。
生き残りをかけた熾烈な争いになるため、いかに素早く確実に顧客を獲得できるかが、企業の将来性を左右するポイントといえるでしょう。
他にはない独自の強みを見つけることがカギ
業界内の競争が熾烈になると予測されるため、その競争をいかに勝ち抜けるかが企業の命運を左右します。激化する競争から抜きんでるには、他社にはない独自の魅力、武器を身につける必要があります。
例えば現在ではファストファッションの台頭が目覚ましいですが、発足当時から高いシェア率を獲得していたわけではありません。最初は安くて品質がそれほど良くないことから、一部のユーザーしか獲得できていませんでしたが、安価で高品質を目指すことで、社会的地位を獲得しています。
つまり、付加価値を付けた商品が求められており、現状からプラスアルファのサービスが必要です。商品自体だけではなく、接客や買い物のシステムといった、他社との差別化が今後は特に重要視されるでしょう。
アパレル業界ランキング
アパレル業界ランキング(2017-18年)
- ファーストリテイリング
1兆8,619億円 - しまむら
5,651億円 - 青山商事
2,584億円 - ワールド
2,458億円 - オンワードHD
2,430億円
アパレル業界についての理解を深めるには、各企業の特徴を知ることも大切です。業界を牽引するリーディングカンパニーを知ることで、業界全体への理解もさらに深まります。売上高から見たランキングを参考にして、トップクラスの企業のそれぞれの違いを知っていきましょう。
ファーストリテイリング
ファーストリテイリングは、国内ファストファッションの先駆けとも言える、ユニクロやジーユーを展開しています。それぞれファストファッションという点は共通していますが、価格帯や想定購買層が若干違い、自社内ですみ分けができている点が、高い売上高に繋がっています。
広く事業展開をしていますが、売上の多くはユニクロ事業で獲得しているのも特徴です。国内ユニクロ事業の売上構成比は約40%、海外ユニクロ事業の売上構成比は約42%と国内の売上を上回っている点も、特徴的なポイントでしょう。
アジアからアメリカ、ヨーロッパと世界中に店舗を増やしていることも特徴であり、国内需要の減少に向けて、海外で市場を開拓して顧客の確保に努めています。
しまむら
しまむらはファストファッションを売りとした企業であり、事業内容は総合衣料品の販売です。しまむらグループと同名の「しまむら」は全国に1,428店舗あり、安価ながらもデザイン性に優れた商品を数多く販売している点が特徴です。
店舗のラインナップは他にもあり、よりカジュアルな「アベイル」は320店舗、ベビーや子供用品の「バースデイ」は284店舗の展開があります。衣料品以外では雑貨の販売もおこなう「シャンブル」が97店舗、シューズの販売をおこなう「ディバロ」が 18店舗と扱う商品の幅は広いです。
活躍は国内だけに留まらず、アジアにも進出しており、台湾で46店舗、上海で10店舗とグローバルに活躍しているのも特徴。
青山商事
青山商事はアパレルの分野に留まらず、幅広い領域で事業展開をしている点が特徴です。もっとも基本の事業はビジネスウェアであり、「洋服の青山」=スーツの販売とイメージする人は多いでしょう。
スーツやその他ビジネスウェアの販売が中心ではありますが、フォーマルな衣料だけではなく、カジュアルラインも展開しています。店舗も洋服の青山から「THE SUIT COMPANY」、「UNIVERSAL LANGUAGE」、「WHITE THE SUIT COMPANY」、「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」と多いのも特徴です。
ビジネスやカジュアルウェア以外では、雑貨の販売や総合リペアサービスのように、小物の販売から修理まで請け負っています。また、アパレル以外ではカード事業や印刷・メディア事業、飲食店などのその他事業と、活躍領域は多彩です。
ワールド
ワールドはブランド事業やデジタル事業、プラットフォーム事業を展開しています。ブランド事業での取り扱いブランドは非常に多く、国内で幅広く店舗を展開している点が特徴です。例えば傘下企業のフィールズインターナショナルだけで見ても、取り扱いブランドは「UNTITLED」、「INDIVI」、「COUP DE CHANCE」他、多数のブランドを扱っています。
デジタル事業ではネット通販のサービスを展開しており、実店舗だけに留まらない販売戦略を取っている点も特徴でしょう。プラットフォーム事業では、衣料品や服飾雑貨の企画提案・生産管理から、調達先の開拓や貿易業務までおこなっています。生産、販売の拠点作りもおこなっており、活躍の幅は広いです。
オンワードHD
オンワードHDでは、アパレルやライフスタイル事業を展開しています。主力となるのはアパレル事業であり、売上高は全体の90%近くを占めています。40以上ものブランドを展開している点が特徴であり、その種類も豊富です。
オリジナルブランドから海外ブランド、法人向けブランドまであり、ひとくちにアパレル事業といっても、展開の幅は非常に広いです。オリジナルブランドでは「23区」「組曲」「五大陸」などが有名であり、他のブランドにはない独自の商品展開が魅力でしょう。
2019年10月に話題となったグループ全体で国内外に約3,000ある店舗の2割程度に相当する約600カ所を閉鎖すると発表した。大量閉鎖により構造改革を進め、収益性を高めたい考えだ。
アパレル業界は時代の流れを受けて変化する業界
トレンドの移り変わりが激しいアパレル業界は、業界全体の動き自体も世間の流行によって影響を受けます。消費者の思考はもちろん、社会構造の変化や景気にも影響を受けやすいため、変動的な業界といえるでしょう。特にファストファッションの台頭以降、消費者の中で低コスト思考が浸透し、これに悩む企業は少なくありません。
一部のファストファッションが大きな利益を獲得し、他の企業は低コスト化の波を受けて、業績を落としてしまうということも多いです。変動的で周囲の影響を受けやすいからこそ、就職するならじっくり下調べをして、本当に就職しても大丈夫か見極めなければなりません。
時代の流れに影響を受けることをよく理解し、今後の社会の変化もチェックしながら、アパレル業界への就職を考えてみましょう。