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D2Cとは?アパレル業界の常識を覆すビジネスモデルを解説

D2Cとは?アパレル業界の常識を覆すビジネスモデルを解説

D2Cは、2010年ごろにアメリカで登場したビジネスモデルです。
特にアパレル業界のトピックスとして目にしたことのある人もいるのではないでしょうか。
ここ数年、アパレル小売業界では“D2C(Direct to Consumer)”がバズワードになっている。

SNSが主なコミュニケーションチャネルとなった昨今、モノの流通の構図が大きく変わったためだ。
とはいえ、一ユーザーとしてD2C企業を見ても、既存のアパレル企業・ブランドとの違いはなかなかわかりにくいかもしれません。

今回は、D2Cが注目される理由や背景について、事例を交えながら解説します。

D2Cとは、「Direct to Consumer」の略です。

メーカーやブランドが、自社で企画・生産した商品を、流通業者を介することなく、自社ECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデルを指します。

「自社開発の商品を直接消費者に販売する」という方法自体は、たとえばWEB上でデジタルサービスを提供するIT企業などでは、すでに一般的に採用されていますよね。これに対してD2Cは、ファッションアイテムや生活用品など、実体のある商品を扱うメーカー・ブランドのビジネスモデルである点で新奇性があります。

中でもアパレル業界では、販売に際して卸売業者や販売店を通していたというだけでなく、企画・生産についても、一部またはすべてを外部委託するODM(Original Design Manufacturing)、OEM(Original Equipment Manufacturing)の仕組みが広く採用されてきた経緯があります。そのため、D2Cモデルがいっそう革新的なものとして映るのではないでしょうか。

たとえば、インスタグラムを通じた商品プロモーションは、商品価値を伝えるストーリ性が高ければ、大手企業が展開する大々的な広告手法に劣らないことを証明した。また、コメント欄を介した顧客との対話は、ファンからダイレクトな声を聞けるため人気商品を生む商品開発のアイデアとなる。

こうして従来、商品開発や広告宣伝を外部へ委託していたプロセスが簡略化され、より顧客に寄り添った形へと変貌を遂げたのだ。

D2C企業の特徴~D2Cはなぜ注目される?

D2C企業の3つの特徴

  1. ECをメインの販売チャネルとしていることです。実店舗がある場合も、顧客とのコミュニケーションに特化した「展示場」とするのが基本で、販売は行っていません。
  2. 商品の種類をごく少数に絞っている点です。在庫のリスクを低減しながら、アイコンアイテムをしっかり設定することで強いブランド力の構築を目指しています。EC限定のアパレルブランドは数多くありますが、あえて少数精鋭の商品で勝負する例はそれほど多くありません。
  3. SNSを顧客との対話の場として重視している点です。新商品やキャンペーン情報などを一方的にPRするのではなく、コメント内容を積極的に、そしてスピーディに商品開発やマーケティング施策に反映させています。コアなファンからのフィードバックは、膨大な購買データからも得られないユニークな商品開発のヒントを与えてくれることもあるようです。

D2Cのコンセプトは、どの分野にも適用される。

実店舗展開を必ずしも必要としないことや、顧客データを大規模かつ効率的に収集できることから、ビックデータ時代のトレンドに沿っている。

SNSを活用することで強いブランド力の構築も比較的行いやすい。

D2Cモデルが企業を強くする仕組み~コスト削減以上のメリット

D2Cモデルのメリットには、次のようなものが挙げられます。

D2Cビジネスモデルは究極のコストの削減

仲介業者に支払っていた費用や、実店舗を運営するための固定費(人件費、テナント料など)を削減できます。その分、商品の価格を下げたり、商品やマーケティング施策を改善したりすることが可能です。D2C企業の提供する商品で高品質・低価格のものがよく見られる理由はここにあるといえるでしょう。

消費者に直接響く効果的なブランディング

企業・ブランドのビジョンを直接、じっくりと顧客に伝えられます。実店舗がメインの販売チャネルだと、顧客はあえてWEBサイトなどを訪れない限り、そのブランドに込められた思いにはなかなか触れられないですよね。これに対して、D2C企業では、顧客が自社ECサイトで買い物をする過程で、自然とブランドのストーリーに入りこめます。その結果、ビジョンに共感できるコアなファンが集まりそうです。

また、顧客との関係構築の機会を逃さない点も重要です。たとえば、ECモールで買い物をしたとき、商品を提供するメーカーの印象より、商品を購入したECモールの印象のほうが強くなることがありますよね。D2Cモデルはこうした顧客との関係構築の機会損失を防ぎ、効果的にブランディングを進めています。

独自の顧客データの収集とスピーディな活用

自社のECサイトを通じて顧客データを独自に収集できます。サイトの滞在時間や離脱率などのデータを直接収集できるので、スピーディにマーケティング施策に反映できそうです。

投資家はこうした新たなビジネスモデルの誕生に大きな興味を持ち、米国では多額の資金調達を果たすスタートアップが続出している。

アパレル業界、小売の業界を変えつつある「D2C」とは

このようにD2Cとは、メーカーが製造から顧客へ直接商品を販売するモデルで、仲介業者や販売店を介さないため、余分なコストをそぎ落とすことに成功した。なかでも、同モデルはアパレル市場で適用されている。

従来のアパレル業界では企画、生産、販売など、細かく役割分担され、それぞれの部門で専用業者を通し、巨大なサプライチェーンを構築していた。

ただ、多数の工程を経るため、マージンがかさみ、消費者は何十ものマージンが乗った価格設定で商品を買わされていた。

“D2C”の本質は、仲介業者を取り払い、質の高い製品を低価格で販売するサプライチェーンを構築することを指す。

一見、D2C企業はスタートアップに多いように感じられるが、実は「ユニクロ」や「Gap」も、類似の仕組みを20年以上前から構築している。

仲介業者をなくすモデル「SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)」だ。

SPAについては下記を参照

アパレル業界のSPA (製造小売業)とは?

アパレル業界では、長年商品企画から生産までを一括で外部に任せるODM(Original Design Manufacturing)という仕組みが一般的だった。近年、倒産したフォーエバー21はこのODMの手法をとってた。

小売側はODM企業から商品のサンプルをもらい、どれを生産するかを決める。自社でデザイナーや企画部門を立ち上げる必要がないため、コスト削減に繋がっていた。

OEM(Original Equipment Manufacturing)では、企画は自社で行い、生産パートのみを外部に任せるため、あくまでも自社開発にこだわる。

この点、企画段階から丸投げして、販売ルートだけを自社で確保することが慣習になってしまっていたのだ。

しかし、年々トレンドの移り変わりが激しくなり、ODM企業とやり取りをしている間に、旬が過ぎてしまうようになってきた。この課題を解決するために登場したのがユニクロのような「SPA」だった。

「ユニクロ」に代表されるSPA企業は、自社店舗を多数持ち、店舗から上がってくる消費者購買データからいち早くトレンド商品を企画。中国や東南アジアの低コストで生産可能な自社商品の開発に特化した提携工場で商品生産を大量に行う。こうして大量生産・大量消費モデルが構築されたのだ。

効率化し過ぎたSPAにはデメリットが生じた。どのSPA企業も同じようなトレンド商品しか企画できなくなってしまったのだ。「ユニクロ」や「Gap」、「Forever21」に来店する顧客は、平均化するとブランドを問わず同じ傾向のデータになる。

ファッションショーやコレクションのような最先端トレンドは各社とも注目するため、情報を仕入れても、差別化を図るのは難しい。

こうしてどの小売店に立ち寄っても、同じようなデザインの商品しか出回っておらず、消費者はお気に入りのブランドを持たなくなる。結果、低価格競争へと向かってしまったのだ。

先進事例に見る成功のヒント~D2C企業はいかに顧客の心をつかんだか

D2Cモデルは、ECやSNSを活用するという手軽なイメージがある一方、商品の質やブランディングに対してストイックで、ハードルの高い印象もあるかもしれません。実際にD2Cモデルを採用して成功している企業・ブランドの事例から、実践のヒントを探ってみましょう。

Warby Parker

2010年にアメリカの大学生4人が創業した眼鏡ブランドで、D2Cの先駆けといわれています。

当初は10~20種類に商品を絞って展開。ハイクオリティな商品をリーズナブルに購入できることから、ミレニアル世代を中心に支持を集めました。SNSを積極的に活用しており、2019年現在、Facebookページの「いいね!」は約75万件、Instagramのフォロワー数は51万人にも上っています。2015年にはアメリカのビジネス誌『Fast Company』の「Most Innovative Companies」で、グーグルやアップルを抑えて1位を獲得しました。

Casper

2014年に創業されたアメリカのマットレスメーカーです。当初のマットレスは1種類のみというシンプルさが顧客に受け入れられ、リリース初月に売上約1億円、2年間で約100億円の売り上げを達成しています。

ブランディング戦略として、「マットレスメーカー」であることを押し出すのではなく「睡眠を中心としたデジタルファーストブランド」を銘打ち、おしゃれでスタイリッシュな世界観を作っているのも特徴です。

また、InstagramやTwitterでのインフルエンサーを活用したPRを積極的に行っており、Instagramで約88万もの「いいね!」を獲得した投稿もあります。

2社ともに、低コストでスタートしながら、今までになかった商品展開やブランドの世界観を打ち出すことで、新しいものに敏感な顧客をうまく獲得できているように思えますよね。

アパレル業界全体に地殻変動が起きている

2019年8月28日、米大手ファストファッションのフォーエバー21が破産申請の準備を進めていると報じられた。17年には、米ラルフローレンがニューヨーク5番街の旗艦店を閉鎖するなど、ブランドビジネスは苦境に立たされている。

SNSの登場は、消費者のライフスタイルに大きな変化を及ぼした。より自分らしさを追い求めるようになり、嗜好性の多様化が進む。ミレニアル世代は企業に与えられるのではなく、自ら選択する消費を好む。
大手企業が得意とする大量生産、大量消費を想定したマスプロダクトや、テレビCMなどで一律で同じ情報を与えて購買を促すマスマーケティングは新世代のニーズに応えることは難しい。

マスマーケティングを得意とする日用品王者の花王ですら「スモールマス」を掲げ、細分化が進むSNS時代の消費者ニーズを捉えようともがく。

この大手企業の”隙間“をぬって、ニッチなニーズを捉えた小規模なブランドが急速にその数を増やしつつある。それらはD2Cと呼ばれる。いずれも小売り企業を介さず、顧客に直接商品を販売するのが特徴だ。文字通りの、ダイレクト・トゥ・コンシューマーブランドである。

先行する米国では、設立当初こそネットを中心とした小規模な事業者だったD2Cブランドが瞬く間に売り上げを拡大。ユニコーン企業が続出している。

おわりに

業界の仕組みを再定義し、ビジネスの新しい勝ち筋を示したD2C。
今後は、アパレル以外の業界にもいっそう広がっていきそうです。

国内では、まだそれほど際立ったD2C企業の事例が見られませんが、動向に注目したいところですね。